大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和59年(あ)1467号 決定

本籍

大阪府東大阪市西石切町二丁目四六六番地の一

住所

加古川刑務所在監中

会社経営コンサルタント

辰巳政春

昭和一一年一月二二日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五九年一〇月一七日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を破棄する。

理由

弁護人花村哲男の上告趣意は、量刑不当、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一)

昭和五九年(あ)第一四六七号

○ 上告趣意書

被告人 辰巳政春

一一年一月二二日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について次の通り上告趣意書を提出する。

昭和五九年一二付一五日

右弁護人 花村哲男

最高裁判所第二小法廷 御中

一 原判決の量刑は不当である。

本件は貴庁第一小法廷に係続している同被告人に対する業務上横領被告事件(五九年(あ)第三一五号事件)と同一審判の可能性があり、又一審では弁護人が併合真理されるよう御願いしたのであるが、本件について、起訴事実を全部認めるならば併合するとのことで、併合してもらえなかったのである。其の為被告人は量刑についても非常な不利益を受けている。又被告人は、自己が経営する辰巳梱包運輸株式会社の組合に対する破産配当金二七、七〇四、六二七円を国税局に差押えられ、本件脱税分の弁済に充当された。このことは第一小法廷事件では事実認定されたが、本件では、立証の機会が与えられなかった。右量事件は同一事実を基礎としているので、事実が両事件で区々の認定をされると困る関係にあり、又中小企業等事業協同組合の組合員の退会・加入の際の法的性格等について統一的な最高裁判所の判断が伺いたく、是非同一法廷で審理有りたい。

原判決には次の通りの事実の誤認があり、右誤認は判決に影響を及ぼすことは明らかで、破棄されないと著しく正義に反するので、原判決の破棄を求める。

二 原判決は、組合が事業団から土地の引渡しを受けた時点で、組合員に土地を再譲渡したと認定した。これは事実の誤認である。

原判決は「少なくとも組合が各組合員に土地を引渡した時点に於いて、既に組合と各組合員との間に有償の譲渡契約が成立したものと認めるのが相当である」と認定している。そして組合が組合員に土地を引渡したのは、組合員に其れより三年内に工場等を建設さすため、事業団から土地の引渡しを受けた時に、直ちに組合員に引渡し(但し別に引渡し行為があったわけでない。)だから、原判決は、組合が事業団から土地の引き渡しを受けた時点頃に、組合員との再譲渡契約が成立したと、認定したのと変わらない。しかして原判決は其の理由として「組合は各組合員との間で、それぞれ特定された土地につき、その譲渡価格の額並びにその頭金並びに割賦金の額を約定した後、各組合員から最終頭金を受取った上、各組合員に右割賦金の支払時期を定めた計算書を交付するとともに、各分譲土地を引渡した」と認定出来るからだとする。

しかし全国で、本件組合と同じ事業を、事業団との間で同じ契約を締結して進めている例は数多い。

しかして原判決が前記認定した時点までは、本件組合が特別他の組合と違ったことをしたわけでない。どの組合も其の時点でそれぞれ将来再譲渡する土地の特定をなし、その面積から計算した割賦金の支払時期と支払金額を記載した書面を交付し、土地も組合員に引渡される。しかしそれだからといって、その時点で組合員に対する再譲渡があったと解されることはない。税法上もそのように解されるとしたら、五年以内に再譲渡した時は、税法上免税をうけうるとした法人税法第三七条の規定が無意味になる。原判決がかかる誤りを犯したのは、割賦金の支払時期・金額を定めた計算書を売買代金の割賦金のそれと誤解していること、また組合が事業団に支払った頭金を、組合員に分担させたものを、組合員が組合に支払った頭金と解したことによる。ここで事業団と組合と組合員との契約関係をよく理解して欲しい。

事業団は組合土地を造成する。事業団はここでその造成に要する費用(土地購入代金を含む)の予算を建てその予算額に応じて組合に頭金の納付を命じてくる。本件については頭金は四六年に納付している。従ってこの頭金は、組合員に対する分譲土地も確定していない時期に支払っているのであって、当時組合には支払うべき金が無かったので、組合員におおよその計算で負担させたのであって、確定土地の譲渡代金の頭金、それも組合員におおよその計算で分担させたのであって、確定土地の譲渡代金の頭金、それも組合に対するそれとは解されない。尚右頭金はその後事業団の造成着手が遅れ、その為土地価格が高騰し、予算額が変更したとして頭金の追加を言ってきたので、追加金を二・三度支払っている。そのことは関係証拠で明らかである。

次に原判決が割賦金の計算書を交付したと認定しているが、この計算書なるものを見て戴ければ、売買代金の計算書でなく、事業団から融資を受けた事業団に対する売買代金残額の分担額と支払期を明らかにしたものであることは明白である。右計算書なるものの、企業名(株)前畑鉄工所分を見て貰えば、書かれた数字の根拠が明白に記載されている。

それによると、組合が事業団から融資を受けた総額一三億四千八五万円を組合土地面積(四二、九四五平方メートル)で割って一平方メートル当たりの単価を出し、それにその組合員の買い受け予定坪数(あくまで予定である。いまだ仮換地処分が完了しておらず、変更することがあり得たし、減歩率の変更もあり得た。現実に譲渡されたのは、此の計算書記載の通りでない。)を乗じた数を融資額としてその返済の日と金額を記載している。従ってこれはあくまでも、事業団と組合間で契約された割賦金総額確定契約書に基づく、組合の事業団に対する割賦金の支払の為にその割賦金を組合員で分担したものであって、決して組合員が買い受けた土地代金を決定したその支払を約定したものでない。(因に、貴社に対する融資額と記載されている)売買代金額は、これに頭金相当額を加えたものであるが、その頭金なるものも次のとおり確定したものでない。又原判決は頭金の額も決定したと言うが、前述したとおり、組合が事業団に支払った頭金を組合員に割り当てただけであって、それ以外に組合員に分譲する土地の頭金を決定したものはない。右組合が事業団に支払った頭金なるものも、事業団が、右土地を造成する前に、両者の間で工場移転用地の造成業務受託および譲渡契約書を締結し、そこで頭金の額と支払を約束している。従って判決が言う頭金の額なるものは、まだ組合員に再譲渡する土地が造成もされておらず、この地上に存在もしていない時期に確定しているのであって、それを存在もしていない土地の譲渡の頭金と解するのは間違いである。又その額についても暫定的なものであって、後、昭和五六年三月二五日、組合が組合員に土地を再分譲した際、計算しなおして清算しているのであって、その代金面積は大部分右計算書の記載、頭金の記載と相違している。

この時期より後に銀行から金を借り受けるのに組合が同土地を担保に入れており、又組合員が、工場を建設する場合、組合所有地として組合が組合員に証明書を出している。このことからも、土地が、この時点で組合員に再譲渡されていないことは明白である。

次に原判決は組合員に対する再分譲契約書がないことについて、次のように説明する。「組合は事業団との土地譲渡譲渡契約により、組合員に対する土地再譲渡については、事業団作成の「公害防止事業団建設施設の再譲渡基準に関する達」により事業団の承認をえたうえ、組合、組合員、事業団の三者の文書による契約によることとし、その際の再譲渡価格は事業団の譲渡価格から算出した原価によるべきこととされていたところ、被告人はこれらの土地を自己の用に供するため、組合の業務として、右「達」に違背し、右原価に利益を上乗せした金額で組合員にこれらの土地を再分譲し、その際自己の悪事の露顕をおそれて契約書等を作成しなかったことが認められ」とする。

原判決によると、組合員に対する再分譲の時期は、組合員に土地を引渡した時(これは前述したとおり、事業団から組合が土地の引き渡しを受けた時と一致する。)だがこの時、右「達」に違反してまで再分譲して被告人に何か得るところがあったのか。大きなペンルティが課せられるだけであって、なにも得るところはない。判決は利益を上乗せしたと思っているらしい。確かに辰巳は利益を上乗せしたことはある。そしてその上乗せ分を横領したとして起訴され、それが第一小法廷に係続している。それについても被告人には色々言い分はあるのであるが、それは別として利益の上乗せはずっと後のことである。原判決も認定した通り、組合員に土地を引き渡したときは、分担分の計算書を渡したのみで、誰からも金は貰っていない。右計算書も事業団に払う金を、割り当て土地で割って、分担させただけであって、被告人は一銭の利益も得ていない。だからこの段階で契約書を作れば上乗せの悪事が露顕すするということもない。契約書を作らなかったのは契約をしていないからである。

被告人がずっと後になって利益を上乗せして、それを横領したとして起訴されたので、世間のみならず裁判所までが偏見をもって判断している証拠であって、その偏見を捨てれば、組合が事業団から土地の引渡しをうけ、組合員に土地を引渡した時は、被告人は何等不当な利益を得ておらず、得る気持ちも無かったこと、契約書がないことは契約をしていないことは容易に理解出来た筈である。成る程供述書に原判決にそうような記載もないではない。しかしそれは客観的な証拠と合致せず、捜査官が自己の独断で誤導した結果であって、錯信すべきでない。

三 被告人は、被告人が経営していた辰巳梱包運輸株式会社の組合に対する破産配当金二七、七〇四、六二七円を国税局より差し押えられ、本件脱税分の弁済に充当された。

このことは弁護人の控訴趣意書に記載されているから調査すべきであったし、原裁判所も、たとえ右控訴趣意書の情状の項に記載されていても、立証の機会を与うべきであった。立証の機会を与えず右事実を認定しなかったのは事実の誤認であって、判決に影響を及ぼすことは明白である。原判決を破棄しないと著しく正義に反する。

以上

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